『ザ・コーヴ』ニコ生先行ロードショー
ニコニコ動画で、2010年6月18日の金曜日の20:00から配信された『ザ・コーヴ』(The Cove)ニコ生先行ロードショーを見た。この映画は映画館で上映することに抗議があったりして、関心を集めていた。表現の自由の問題で言えば、どんな映画であっても表現の自由によって守られるべきということはない。例えば、個別具体的な殺人の方法をとても詳細に2時間くらい解説する映画であれば、その映画の上映には制限を加えるべきだ。『ザ・コーヴ』は表現の自由によって制限される映画ではないし、抗議をあげて映画の上映をやめさせるほどのものではなかった。
『ザ・コーヴ』で気になったところが幾つかあった。牛とイルカの食肉に言及して、この2つには違いがあると言っていた場面があった。その違いは、メディアが報道しないので、日本人は日本でイルカの肉が食べられていることを知らないというものだった。しかし、ウェブ上で日本でのイルカの肉の食用に言及しているサイトは山ほどあるので、これはただの事実誤認だ。
そして、この映画には、シーシェパードの代表のポール・ワトソンが出てくる場面が3回もあった。このことによって、この映画の「正義」はかなり揺らいだものになっている。他には、イルカの食用肉の水銀を問題にして、水俣病と同じであると言っていた。『ザ・コーヴ』で訴求力があったものをあげるのならば、イルカの肉であるのにそうであると表示していない偽装表示問題の場面があったことくらいだった。
『ザ・コーヴ』で言っているイルカの食用肉ならウェブサイトで山ほどの言及があるし、シーシェパードの代表を複数回も出演させている問題があるし、水俣病の描写などで科学的であると思い込んでいる問題もある。この映画は人間とイルカ、人間と自然との調和をどうするのかという映画であるはずだが、それは『ザ・コーヴ』のような感傷的な描写の仕方で解決するものではない。
批判するのならば、その対象を見てから批判をしろというのはよく言われることだ。その意味で、ニコニコ動画で『ザ・コーヴ』を配信したのはよかった。配信前に、ニコニコ動画で『ザ・コーヴ』を配信したほうがいいのかというアンケートにも9割くらいが配信に賛成だった。
ニコニコ動画の公式生放送では、「痴漢と呼ばれ自殺~残された「ボイスレコーダー」は何を語っているか?」での警察の問題や、田原総一郎が出たニコ生討論番組では、天皇制の是非のアンケートもしていた。そして、今回の『ザ・コーヴ』の配信もある。今回の『ザ・コーヴ』の配信でも、天皇制の是非のアンケートでも、在特会がニコニコ動画に抗議デモをしたというのは聞いたことがない。
ニコニコ動画の公式生放送は、そのような多様性がある配信に魅力がある。公式生放送で田母神敏雄などが出演する核武装論の番組をして、日本の核武装を肯定するという討論番組を作るとかそういう方向性での多様性があってもいい。『ザ・コーヴ』の配信や天皇制の是非のアンケートには賛成と賞賛していた者たちが、同じ公式生放送での核武装論の番組には極右とか言って抗議をあげるならば、その極右も笑えない狭量さである。自分の意見がどうであれ言論の自由は確保されるべきだし、ニコニコ動画にはその言論の多様性を追求してほしい。
『ザ・コーヴ』を見ながらどんなコメントがされるのかを見るためにコメントを表示して、できるだけコメントも読んでいた。表アリーナの範囲内の座席に入れたのでそのコメントを見た限りでは、「反日」とか「売国奴」とか「非国民」というコメントは見なかった。俗に言われるそういうネット右翼のコメントは、見なかった。
ニコニコ公式生放送の極端なネット左翼の問題もある。ニコニコ公式生放送での日本共産党大会を見ていた時に、「昔の暴力肯定の共産党に戻れ」というようなコメントがあった。しかも、そういうコメントを何度も見た。これは、極左冒険主義の共産党を支持するということだ。共産党の支持層には、一定数の暴力革命主義の支持者もいるのだろう。そのような、左の在特会をさらに先鋭化させたコメントをしている極端なネット左翼もニコニコ公式生放送にいるので、その層への注視もかなり必要だ。
2010年6月掲載