国会議員と性産業

風俗ライターだったなどの報道がされた田中美絵子が謝罪した。「職業に貴賎なし」は、ただの建前だ。「バイトの職歴まで明かす必要はない」「他の議員はバイトの職歴まで明かしているのか」などのことを言っている者たちがいるが、それなら、なぜ、田中美絵子は派遣社員の職歴を前面に出して選挙運動をしたのだろうか。バイトの職歴を明かす必要がないなら、派遣社員の職歴も別に明かす必要はないだろう。

田中美絵子は派遣社員の職歴を明かして、それを前面に出して選挙運動をしてきた。そして、社会的弱者からの主張をして選挙運動をしてきたのではないのか。派遣社員の職歴は明かしながら、雑誌で仕事をしたり、映画にも出演していたことなどは言えないとなると不自然ではないだろうか。

「田中美絵子は職歴を明かして国会議員になる必要はない」などの田中美絵子を擁護する者たちの「正義」にも、「職業に貴賎あり」の思考が滲み出ている。田中美絵子はそれらの性産業に関わる職歴を明かして、国会議員になったらそれらの性産業に関わる仕事をするなどの選挙運動ができないことに、そもそもの問題がある。しかし、そんなことを許容できる民主党ではないし、日本の政党でそれを許容できる政党は一党もない。

田中美絵子が風俗ライターで仕事をしていたところは、売春の問題がある。売春防止法があるので、売春は非合法である(売春自体には処罰規定はない⇒売春防止法:売春買春は違法で禁止だが,両方に処罰規定はない)。非合法であるところで仕事をしていた国会議員だから、問題になるのは当たり前だ(今の日本では)。

田中美絵子が女だったからとかは問題ではなく、非合法のところで働いていた者が国会議員になれば、誰でも問題になる。田中美絵子が問題になるのは、現状の日本では特に不思議なことではない。今回の件で女性差別などと言っている者たちは、日本の売買春の現状をどう考えているのだろうか。

以下のような、偏狭なフェミニストの意見が日本を覆っていることをどう考えているのだろうか。性産業に対する無変革で偏見のある認識は、日本では保守派よりも、むしろ左派のほうが根強いのではないのかとさえ思われてくるくらいだ。

以下の『朝日新聞』にも載った上野千鶴子の発言は、その象徴的なものだ。

上野千鶴子『発情装置―エロスのシナリオ』(筑摩書房)「「セックスというお仕事」の困惑」

 もちろん、この世の中には、いまだに自由売春の名にあたいする労働は微々たるものにすぎず、大半は強制をともなう管理売春が占めている。

伏見憲明『性の倫理学』(朝日新聞社)「家父長制と性産業 快楽の市場では「良貨が悪貨を駆逐する」」の中で、伏見憲明は以下のことを上野千鶴子に聞いている。

伏見 上野さんが「大半の売春は自由売春ではなくて、管理売春である」と発言したことに対して、現場からは「そんなことはない」という批判がありますが。

この質問に対して、上野千鶴子は「現場とはどんな現場でしょうか?日本における性産業の規模がどの程度のものかはわかりません」と答えている。上野千鶴子は特に調べもせずに、『朝日新聞』に載せてしまったことが分かる。上野千鶴子にも『朝日新聞』にも、「低俗な性風俗の調査など必要ない。適当な意見を載せておけ」という心理が透けて見える。「職業に貴賎あり」の思考がありありと見えるのは、この上野千鶴子や『朝日新聞』だ。

『売る売らないはワタシが決める―売春肯定宣言』(ポット出版)の「性風俗と売買春」の座談の中でも上野千鶴子のこの発言が問題になっていて、南智子がそれについて答えている。

南…はい、わかりました。性風俗の仕事に入ってだいたい一〇年ちょっとなんですが、その間に見てきたことと、それから現在の現場から実際に起こっていることをお話ししたいと思います。ほかの国々はともかく、日本においては、現在、売春をしたくないにもかかわらず、拉致や犯罪的な方法で、強制されて売春をさせられている人は非常に少ないと思います。で、あった場合、それは刑事事件だと思いますね。

田中美絵子が性産業と関わりがあったという一連の報道などで、女性差別とか、男社会の問題とか、保守層の問題などのことも言われているが、日本のフェミニストたちの性産業に対する言動を考えると、田中美絵子のような者が国会議員になることに障害が出てくる理由は、「男社会と対峙」しているはずの日本のフェミニストたちにもある。

風俗ライターやポルノ女優やセックスワーカーなどの人たちが国会議員になるのを妨げているのは、「リベラル」とも言われることもある『朝日新聞』や日本のフェミニストたちの性産業に対する無変革で偏見ある認識と、それに伴う性産業に関する法体系の不備ではないだろうか。本来はこういうことは左派がすることだが、日本の左派の欠点がここにも見えている。

反省の女性学とはに、当サイトの反省の女性学の趣旨を書いています。

2009年9月掲載


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