買春処罰と優生思想

売春ではなく、買春を処罰するのを最初にしたのはスウェーデンなので、この方式はスウェーデン方式と言われて、ノルディック方式、北欧モデルとも言われる。ここでの売買春は成人同士のことで、成人同士であっても買春だけ処罰することだ。

この買春処罰の発想について今まで様々なことが言われてきたが、重要な視点が抜けてきた。この買春処罰は優生思想という視点だ。スウェーデンが始めたことでも分かる。スウェーデンは歴史的に優生思想の元凶の国で、知的障害者、精神障害者、てんかん患者の婚姻が禁止された婚姻法が改正されたのは1915年のことだ。高福祉国家は国家が国民を選択する度合いが強くなるので、高福祉と優生思想は結びついてきた。

この福祉国家と優生思想を知るには、『優生学と人間社会』(講談社現代新書)を読むといいだろう。スウェーデンは優生思想を代表する国であり障害者差別の歴史が根深くあるのに、買春処罰も含めて表向きの意味のない女性政策ばかりに目を向け、それに比べて障害者対策はしてこなかった。

「通常」で「まともな」性生活を送るように規定し、国が「まとも」ではない性行為の刑事処罰まで行う。性行為から欲望と快楽という面を削ごうとする理想の性道徳から見た刑罰化であり、性行為は正当な生殖のためにあるとする優生思想に近くなる。

買春しないと性行為できない障害者はどうなるのか。買春処罰の行きつく先のまともと考える性行為から逸脱した同性愛者たちの性行為はどうなっていくのだろうか。そして、フランスで売春でなく買春が処罰化されたが、フランスでは中国人セックスワーカーがいた。その中国人セックスワーカーは人身売買でもなく独立して行っていた。

フランスの買春処罰は、女性の人権という盾を持ちながら、実質は移民排除で動いていたのだ。そして、「正統」なフランス人種を守るために、中国人セックスワーカーと性行為する下劣なフランス人はフランスには必要ないという思想が買春処罰にある。

買春処罰の大元にあるのは、その国の正統人種を国が決定するための優生思想であるという視点は、大いに強調されるべきだろう。その時代に絶対の正義と思われていたことが、優生思想であった。

優生思想が当然の時代では、むしろ、左翼側が優生思想に染まっていたのだ。デンマークを見ても、保守系の農民党は優生政策の実現にきわめて無関心で、社民党政権になってから優生政策が行われた(『優生学と人間社会』)。

買春処罰は、新しい時代の優生思想として機能している。女性の人権を盾に、移民排除も合わさり、少子化解消も重なり、性道徳や性倫理も重なり、正しい人種になるための国の強化を謳う。新時代のねじれた富国強兵という幻想の一貫としての買春処罰の面もある。

買春では歴史的な権力関係もある中で抑圧してきた側を処罰するのなら、白人圏は植民地化して蹂躙してきた有色人種を排除することはできないのに、移民排除に向かっている。買春処罰の時の表面上にすぎない建前とは、全く正反対の論理が移民には向かっているのだ。

人権も盾に行ってきた優生思想の歴史と似たことが、買春処罰で起こっている。優生思想が間違っていたように、買春処罰は間違っていたと言われるようになるだろう。性的弱者を処罰する買春処罰は優生思想の子孫であったと。

女たちの買春:江戸時代の男性売春者を買春の女性買春者と日本女性の処女性に、女性が買春してきたことを書いている。

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2016年8月掲載



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