夫婦別姓の問題点:俗説と慎重論

最高裁の夫婦同姓の合憲判断については、最高裁の夫婦別姓禁止は合憲が正当な理由に書いています。

夫婦別姓の問題点:夫婦別姓が男女平等,ジェンダー平等に反する理由

夫婦別姓は生家主義で家制度の封建制を強化する


『読売新聞』の記事によると、民主党が選択的夫婦別姓を導入する方針を固めたようだ。夫婦別姓に関連することでも、短絡的な言説が蔓延している。夫婦別姓論には慎重を要する。選択的夫婦別姓に賛成であることと、夫婦別姓の歴史的経緯を考えて夫婦別姓論に慎重であることは両立する。

上野千鶴子『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)に、「夫婦別姓の罠」という項目がある。その中の「3 子供の姓の父系主義」に以下の記述がある。

 また家父長制のもとで、夫婦別姓が抑圧的に働くこともある。別姓を主張する人の中には、たとえば同じ東アジア圏でお隣りの中国や韓国では夫婦別姓が実行されているのを見て、「女性解放がすすんでいる」と短絡的な理解をする人々がいる。だが、中国も韓国も、日本におとらず、否、日本以上に父系制の強い国である。こういう社会では、父系集団に嫁入した女は、姓の同じ集団の中で一人だけちがう姓を名のりつづけることで、終生その集団にとってヨソモノであるという記号を背負う。

夫婦別姓だから男女平等であるとかジェンダー平等であるということはない。むしろ、夫婦別姓がジェンダー平等に反してきた長い歴史があって、夫婦別姓とパターナリズムは親和性がある。そのことを考えると夫婦別姓には慎重論が出てくる。「韓国は夫婦別姓だから日本よりも進歩的」などと言うのは、その歴史的経緯を考えると無知を曝け出すことになる。

夫婦別姓に賛成であるのは、左派の人たちに多い。左派の人たちは歴史修正主義を批判している。しかし、左派の人たちの夫婦別姓の歴史認識はどうなっているのだろうか。夫婦別姓に賛成であると言っている人たちで、夫婦別姓の歴史に沈黙するか単なる無知で、単にイデオロギーで夫婦別姓に賛成している人たちに対する警戒が出てくるのは当然のことだ。

個人のイデオロギーのためなら歴史は関係ないというのが、歴史修正主義につながっていく。左派は、こういう歴史修正主義を批判してきたはずだ。ウェブ上の左派の夫婦別姓の主張を見ると、批判してきたはずの歴史修正主義の姿勢をその左派たちが繰り返しているという愚かさがあちこちで見受けられる。夫婦別姓に対する慎重論は、こういう左派の歴史修正主義に対する警戒である。

《追記》

そもそも日本は夫婦別姓が原則で、北条政子もそうであった。1870年(明治3)の太政官戒告から庶民が姓を持つようになったわけで、1876年の太政官指令の「婦女他家ニ嫁スルモ仍(な)ホ所生ノ氏ヲ用フヘキコト」で、夫婦別姓の原則を言っている。「封建時代で女性差別が酷かった」などと言っていた時代が実は夫婦別姓だったわけで、普段言っている「女性差別」とやらとの整合性はどうなるのか?

反省の女性学とはに、当サイトの反省の女性学の趣旨を書いています。

2009年9月掲載



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