夫婦別姓とジェンダー平等の問題点
最高裁の夫婦同姓の合憲判断については、最高裁の夫婦別姓禁止は合憲が正当な理由に書いています。
ウェブ上の夫婦別姓の意見を見ると、「別姓こそ男女平等」でこれを正論と言っている者などがいる。しかし、むしろ「別姓こそが男女平等ではない」歴史があった。
上野千鶴子『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)に、「夫婦別姓の罠」という項目がある。その中の「3 子供の姓の父系主義」に以下の記述がある。
また家父長制のもとで、夫婦別姓が抑圧的に働くこともある。別姓を主張する人の中には、たとえば同じ東アジア圏でお隣りの中国や韓国では夫婦別姓が実行されているのを見て、「女性解放がすすんでいる」と短絡的な理解をする人々がいる。だが、中国も韓国も、日本におとらず、否、日本以上に父系制の強い国である。こういう社会では、父系集団に嫁入した女は、姓の同じ集団の中で一人だけちがう姓を名のりつづけることで、終生その集団にとってヨソモノであるという記号を背負う。
「別姓こそ男女平等で、この正論に同姓派は絶対に勝てない」などと言っている者もいたが、同姓派よりも別姓派のほうが男女平等であると勘違いしている。これは、同姓婚を選ぶのは女性蔑視であり、完全な夫婦別姓にしろという頓珍漢な意見にもつながる。夫婦が別姓になれば男女平等になるという妄想がある。
夫婦別姓が重要なのではない。重要なのは、選択的夫婦別姓だ。選択的夫婦別姓は、選択できるというところに重要性があって、夫婦別姓にできるから重要なのではない。夫婦同姓にできるというところに、歴史的に見て重要性がある。選択的夫婦別姓で夫婦別姓にできることで頭がいっぱいになるのは、夫婦別姓と夫婦一体思想である夫婦同姓、そして選択的夫婦別姓の違いが分かっていないからだ。
夫婦別姓では、妻が夫の家に入れないという問題が起こる。夫婦同姓では、妻は夫の家に入る。明治民法の第七百八十八条には、「妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル」とある。これは妻が夫の家にも入れないという夫婦別姓に比べたら、夫婦は一体であるという「人権」意識のあらわれである。選択的夫婦別姓は、この夫婦一体思想の夫婦同姓よりもさらに「人権」のことを考えたものだ。
「別姓こそ男女平等」などのことを言って夫婦別姓だけにすると、妻を夫の家系から排除する夫婦別姓のできあがりである。夫婦別姓だけを持ち上げて賛成し、夫婦同姓を意味も分からずに批判することは、選択的夫婦別姓の理解が足らないからだ。夫婦別姓の問題は、同姓にはできない夫婦の姓の問題があって、これを考えると夫婦別姓は何ら男女平等ではないことが分かる。
「別姓こそ男女平等」などのことを言う者たちは、夫婦別姓を批判する者たちをバックラッシュ派と言ったり、選択的夫婦別姓で夫婦同姓を選んだ者たちに男女平等の視点が足りないなどのことを真剣に言いそうだ。 「別姓こそ男女平等」などと言う者たちこそがバックラッシュ派にふさわしいのに、バックラッシュ派がバックラッシュと言う不思議さがある。
「夫婦別姓は、共産主義思想に根を持つフェミニズムによる家族解体の陰謀」なることを言う者たちも大概おかしいが、「夫婦別姓こそが男女平等の道」なることを言う者たちも相当におかしい。夫婦別姓は、家族解体どころか、パターナリズムに根をはった長い歴史を持ってきたのだから。
夫婦別姓の問題点として、夫婦別姓によってパターナリズムは強化するのではないか?ということを考えて、だから夫婦同姓を選択できるようにするというところまで考えないといけない。夫婦別姓に対する反論は「夫婦別姓は家族の絆をこわすから」で、夫婦別姓に賛成なのは「夫婦別姓は男女平等だから」という短絡的なことばかり言い合っているのを見ると、どちらとも前提の認識が間違っている点で似たようなものではないだろうか。
夫婦別姓の意見を見ても、保守派は感情に訴えかけ、左派は知性に訴えかけるということは、かなり怪しいのではないのか。どちらとも、感情に訴えかけている。そして、「歴史なんかどうでもいい」という点でも、同じ仲間ある。しかし、歴史修正主義を批判している左派が、「歴史なんかどうでもいい」でいいのだろうか。
《追記》
そもそも日本は夫婦別姓が原則で、北条政子もそうであった。1870年(明治3)の太政官戒告から庶民が姓を持つようになったわけで、1876年の太政官指令の「婦女他家ニ嫁スルモ仍(な)ホ所生ノ氏ヲ用フヘキコト」で、夫婦別姓の原則を言っている。「封建時代で女性差別が酷かった」などと言っていた時代が実は夫婦別姓だったわけで、普段言っている「女性差別」とやらとの整合性はどうなるのか?
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2009年10月掲載
- 最高裁の夫婦別姓禁止は合憲が正当な理由
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