信濃毎日新聞の夫婦別姓論

2011年1月8日付けの『信濃毎日新聞』の記事に、夫婦別姓の記事があった。その記事は、決定的に間違っているところがあった。『信濃毎日新聞』は、戦時中に軍部の圧力に抗した日本の左派を代表する知性であるなどと言われるが、その知性が微塵も見えない記事だった。

信濃毎日新聞[信毎web] 夫婦別姓 早期実現に歩を進めよう

http://www.shinmai.co.jp/news/20110108/KT110107ETI090007000022.htm

夫婦別姓については以下の記事に書いたが、韓国の夫婦別姓についての見当違いは、『信濃毎日新聞』が2011年の記事に書くくらいに、まだ根強く残っている。

夫婦別姓の問題点:夫婦別姓が男女平等,ジェンダー平等に反する理由

『信濃毎日新聞』が決定的に間違っているのは、以下の文章だ。

http://www.shinmai.co.jp/news/20110108/KT110107ETI090007000022.htm

 「別姓は家族の絆を崩壊させる」といった反対論がある。論理に飛躍が過ぎないか。たとえば、韓国は夫婦別姓だが、家族の結びつきの強さで知られる。

2011年になっても、多様さを認めるという理由で韓国の夫婦別姓を出すのは、お笑いだ。『信濃毎日新聞』の同記事には、韓国の例を出す前に、実際に多様さを認めるためと書いている。

http://www.shinmai.co.jp/news/20110108/KT110107ETI090007000022.htm

 多様さを増す現代の家族の姿を踏まえて、民法を望ましい内容に見直すのは、国会の役割である。民主党は原点に戻り、早期実現に歩を進めてもらいたい。

『信濃毎日新聞』が言っていることは、「多様さを増す現代の家族の姿を踏まえるために、韓国の夫婦別姓を見習おう」ということだ。未だにこんなことを新聞社の記事に書いているのだから、噴き出してしまう。

韓国の夫婦別姓については、例えば、以下の記述がある。

上野千鶴子『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)「夫婦別姓の罠」の「3 子供の姓の父系主義」

 また家父長制のもとで、夫婦別姓が抑圧的に働くこともある。別姓を主張する人の中には、たとえば同じ東アジア圏でお隣りの中国や韓国では夫婦別姓が実行されているのを見て、「女性解放がすすんでいる」と短絡的な理解をする人々がいる。だが、中国も韓国も、日本におとらず、否、日本以上に父系制の強い国である。こういう社会では、父系集団に嫁入した女は、姓の同じ集団の中で一人だけちがう姓を名のりつづけることで、終生その集団にとってヨソモノであるという記号を背負う。

韓国の夫婦別姓の歴史は、夫の家系には、妻は入れないというものだ。『信濃毎日新聞』の記者は、こういうことに全く無知で記事を書いてしまったことが分かる。

『日本歴史大事典』(小学館)の『信濃毎日新聞』の項目は安田常雄が担当して、以下のことが書いてある。

同紙が知的なジャーナリズムとして声価を得てきた一因は、優れた記者を擁してきたことにある。

特に有名なのが、桐生悠々(きりゅうゆうゆう)だ。桐生悠々は、1933年8月11日付けの『信濃毎日新聞』の論説「関東防空大演習を嗤ふ」の記事が、反軍的とみなされて辞任した。その後も、桐生悠々が『他山の石(たざんのいし)』で軍部批判や戦争批判を展開したことで、桐生悠々に対して「硬質な明治リベラリストの骨格をみることができる」と同じ『日本歴史大事典』の桐生悠々の項目に書いてある。

『信濃毎日新聞』を見てもそうだが、この夫婦別姓の件に限らず、リベラルの知性や左派の知性は溶解しているのではないのかということだ。『信濃毎日新聞』を日本を代表するリベラル紙の知性であると見るのならば、日本のリベラル紙なるものの程度は相当に低いものだ。本当にリベラルであるのならば、夫婦別姓での決定的な間違いをしてはいけないことで、韓国の夫婦別姓を持ち上げてしまう。

一見リベラルと思われている者が言う間違ったリベラルの知識は、非常に性質が悪い。夫婦別姓で言えば、国家が崩壊するから夫婦別姓には反対であると明確に反対するほうが分かりやすい。『信濃毎日新聞』のように戦前の軍部に対抗したリベラル紙と思われている新聞で、夫婦別姓で韓国を持ち上げると、余計に夫婦別姓問題がこじれてしまう。

2011年3月掲載

《追記》

そもそも日本は夫婦別姓が原則で、北条政子もそうであった。1870年(明治3)の太政官戒告から庶民が姓を持つようになったわけで、1876年の太政官指令の「婦女他家ニ嫁スルモ仍(な)ホ所生ノ氏ヲ用フヘキコト」で、夫婦別姓の原則を言っている。「封建時代で女性差別が酷かった」などと言っていた時代が実は夫婦別姓だったわけで、普段言っている「女性差別」とやらとの整合性はどうなるのか?



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